脱炭素と聞くと、「うちにはまだ関係ない」「大企業の話でしょ?」と思っていませんか?実は今、その“波”は確実に中小企業のすぐそばまで来ています。
取引先から排出量の報告を求められたり、補助金や融資の加点条件として脱炭素目標の有無が問われたり──。これまで「なんとなく必要そう」だった脱炭素対応が、「明確な選別基準」へと変わりつつあるのです。
東京都が進める「カーボンハーフ」、国のサステナビリティ開示基準(SSBJ)、急増するSBT認定企業、Scope1・2算定義務化の流れ……。制度の枠組みも整備が進み、「やっていないこと」がリスクになり始めています。
本ブログは、2025年6月に東京都主催で行われたセミナー「中小企業のための脱炭素スタートアップ」講座の内容をもとに、全3回でお届けするものです。
- 第1回:中小企業は今が始めどき!脱炭素を“やらないリスク”から解説
- 脱炭素の動きは大企業にとどまらず、制度・取引先・金融から中小企業に広がりつつあり、“今こそ始めどき”であることを解説します。
- 第2回:Scope1・2を“測る”から脱炭素が始まる:中小企業の第一歩(本稿)
- Scope1・2排出量の算定は、脱炭素経営の出発点であり、データとマスターの組み合わせというシンプルな構造から無理なく始められます。
- 第3回:SBTとEA21で“選ばれる会社”へ:脱炭素の仕組みと信頼の作り方
- SBT(目標)とEA21(仕組み)の2つを軸に、中小企業でも実践可能な脱炭素の進め方と信頼形成のコツを、具体的な事例と共に紹介します。
<第2回 Scope1・2を“測る”から脱炭素が始まる:中小企業の第一歩>
「脱炭素を進めたいとは思っている。でも何から始めればいいのか分からない」中小企業の多くが抱えるこの悩みに対し、セミナーでは以下のような提示をしています。
それが、まず“測る”ことから始めるというステップです。
どんな対策も、まず“現状”が分からなければ、改善は進みません。
Scope1・2は「最初にやるべき基本動作」
脱炭素の話になると、いきなり再エネ導入やネットゼロなどが話題になりますが、その前に必要なのが「自社の排出量を把握すること」です。
特に、Scope1・2と呼ばれる領域は、
- Scope1:自社が直接排出するCO₂(燃料の使用など)
- Scope2:購入電力などを通じて間接的に排出するCO₂
という「自社でコントロールできる排出」なので、あらゆる制度(SBT・EA21など)の共通の出発点として求められています。Scope3(サプライチェーン由来の排出)は確かに大切ですが、まずはScope1・2から着実に。これは国際的にも共通のアプローチです。
算定の基本は「データ × 排出原単位」
CO₂排出量の算定は、複雑そうに見えて、基本構造はとてもシンプルです。
排出量 = 使用量(活動量) × 排出係数(原単位)

たとえば
- ガソリン500ℓ × 排出係数2.322 → 1,161kg-CO₂
- 電力10,000kWh × 係数0.00038 → 3.8t-CO₂
このように、「いくら使ったか」×「どれくらい排出するか」というかけ算で算出されます。
データ(使用量)は月次のエネルギー使用量、排出係数は環境省や電力会社が公表しており、信頼性のある値です。
“どのツールを使うか”より“何を理解しているか”
最近はさまざまな算定ツールがあり、使えばすぐにCO₂排出量を自動計算してくれるものもあります。ただし、ツールの便利さに頼るだけでなく、基本構造を理解しておくことが重要です。
- 活動量(データ):月ごとの使用量を集計できる体制があるか?
- 排出係数(マスター):毎年更新される数字を、正しく選べているか?
- 電力使用量の把握:複数拠点がある場合はどう集計するか?
こうした視点を押さえておくことで、算定後の改善(削減)にもつなげやすくなります。
中小企業の算定事例に見る工夫と効果

環境省 中小規模事業者向けの脱炭素経営導入事例集 https://www.env.go.jp/content/000114657.pdf
セミナーでは、さまざまな業種の中小企業がScope1・2をどのように見える化してきたか、具体的な取り組み事例が紹介しました。
- 建設業では、経理データからではなく「重機の稼働時間」ベースでの実績データに切り替え
- 製造業では、排出量の多くを占める“焼却由来のCO₂”を把握し、設備更新の計画に活用
- 卸売業では、税理士からの電力使用“金額”を起点に、燃料使用量を逆算
これらの事例は共通して、「完璧を目指すよりも、まずできる範囲から実態に近づく工夫」がなされていました。
重要なのは、測定精度よりも“実行につながるか”という視点です。
まとめ
脱炭素経営の第一歩は、Scope1・2排出量の“見える化”。
これは、特別なツールや資格が必要なものではなく、自社のエネルギー使用量に少し丁寧に目を向けることで、誰でも着手できます。“測ることで気づき、気づくことで整える”。この流れがあってこそ、数値目標(SBT)や運用の仕組み(EA21)も、意味を持ちます。
次回は、“測る”の先にある「整える」ステップ──
SBTとEA21で“選ばれる会社”へ:脱炭素の仕組みと信頼の作り方について、ご紹介します。
このブログは6月16日に行われた東京都HTT事業のセミナーでの内容を要約したものです。東京都の取材記事へはこちらよりアクセスください。
経営の考えを現場へ、社内の取組を社外へ、脱炭素の活動を繋いで広める | HTT実践推進ナビゲーター事業|東京都
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