重量ベースからリスクベースへ―希少資源と廃棄物制度のすれ違い

スマホ金属とEUクリティカル原材料で見る「重量基準」の限界

連載全体の概要

「サーキュラーエコノミー」という言葉が定着して久しいものの、現場の実感とはまだ距離があります。“持続可能な循環”が理想であることは誰もが理解していますが、現場で直面する具体的な障害は、まだ十分に整理されていないように思います。制度的には“循環”が進んでいるように見えても、実際の再資源化プロセスには技術的・制度的な壁が多く、必ずしも「持続可能な循環」にはなっていません。

本連載では、筆者が製造現場で体験してきた“再資源化のリアル”を出発点に、資源循環を支える構造的課題を掘り下げます。

テーマは、サーキュラーエコノミーを「技術」「制度」「信頼」の3つの軸から捉え直すこと。現場の目線でサーキュラーの課題と可能性を見つめ、廃棄物制度や有価物のトレーサビリティ、そして企業が担う“責任ある循環”のあり方を考えていきます。

【全4回構成】

  • 第1回:技術者が見た“もったいない構造”―再資源化の現実とエネルギーの壁
    ~素材を使っていながら使えていない構造を、現場の体験から再考する。~
  • 第2回:重量ベースからリスクベースへ―希少資源と廃棄物制度のすれ違い(本稿)
    ~スマホ金属とEUクリティカル原材料で見る「重量基準」の限界~
  • 第3回:“有価物”が透明性を奪う?―トレーサビリティの盲点を問う
    ~価値があるがゆえに追跡できない、日本特有の構造的問題を掘り下げる。~
  • 第4回:“信頼できる循環”の実現例―トレーサビリティが企業価値を生む
    ~責任ある循環を実現する企業の実践例から、制度と現場をつなぐ道筋を探る。~

日本の廃棄物制度が重量を基準にしているのは、決して誤りではありません。

廃掃法が制定された1970年代から1990年代にかけて、日本が直面していた課題は「不法投棄」と「最終処分場の逼迫」でした。

社会全体が、いかに排出量そのものを減らすかに意識を集中させていた時代です。

その状況で「量(トン)を基準に管理する」ことは、ごく自然で合理的な発想でした。

ただし、私たちが生きる現在は、当時とは状況が大きく変わっています。

半導体、電子部品、電池、モーターといった産業は、日本全体の競争力を支える中核産業となり、そこでは数グラムの希少金属が製品性能の大部分を左右します。

しかし、これらの重要資源は、制度上は回収が難しいゆえに「廃棄物1トン」の中に埋もれ、リサイクルの実態がほとんど見えてきません。

つまり、私たちの社会構造が変わるなかで、制度の“視点”が追いついていない部分があると考えています。

鉄1トンと金1トンが、制度上は同じ「廃棄物1トン」

このことを象徴するのが、鉄1トンと金1トンが制度上では同じ「1トン」として扱われる点です。もちろん、金1トンを廃棄物で捨てる人はいません。ただ金1gが含まれた汚泥1トンが廃棄物になる可能性はあるでしょう。廃掃法の目的は「安全で衛生的な処理」と「量の抑制」です。しかし、近年の先端産業では「量」と「価値」はまったく一致しません。最近は金が高騰しています。金は貴金属としての価値の他に産業用としても非常に重要な金属ですが、このように高い産業的価値を持つ金属はたくさんあります。

  • ネオジム磁石の数十グラムがモーターの性能を左右する
  • 白金(Pt)の数mgが触媒の反応効率を決める
  • 半導体や電子部品などでは数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の薄膜のTa(タンタル)がデバイスの特性を保証している

こうした“重要な微量”は、重量ベースだけでは評価しきれません。ごく微量な重量のため、廃棄物としての量は増えなくても、逸失価値としての量は大きなものになってしまうのです。

重量ベースでは見えないもの ―「リスクベース」の視点

いま必要なのは、重量という軸を否定することではなく、その上に 新しい評価軸を積み重ねる ことだと思います。たとえば以下です。

  • 機能価値:どれだけ製品の性能を決めているか
  • 代替可能性:代わりの材料があるか
  • 地政学リスク:供給が特定国に偏っていないか
  • 回収可能性:どれほど技術的に回収しやすいか
  • 経済価値:市場価値、価格の安定性
  • 戦略的重要度:国家の基幹産業に直結するか

これらは、重量にはまったく現れません。むしろ“重量では見えてこない部分”こそ、未来の循環経済の中核になる可能性があります。こうした視点は、EUがRMC(再生材含有率)やDPP(材料パスポート)を導入し始めている理由とも重なります。欧州では「重量」ではなく「来歴」「組成」「機能」「リスク」が評価軸に移りつつあります。

このことをデータで見てみます。(下図1,2)携帯電話に含まれる金属量(g/kg)と、EUが公表する供給リスク(Supply Risk: SR)を対比したものです。本図は、典型的な携帯電話に含まれる金属量(g/kg)と、EUが公表する供給リスク(Supply Risk: SR)を対比したものです。

携帯電話本体1kgあたりに含まれる各金属の量(g)と、EUクリティカル原材料2023の供給リスク指標(SR)をプロットした散布図。CuやAlは量が多い一方でリスクは低く、NdやCo、Ptなどごく少量の金属が高いリスクを持つことを示している。

図1は携帯電話本体のものですが、携帯電話の中で最も重量が多い金属は Cu(銅)や Al(アルミ)です。しかし、これらは EU の供給リスク指標では比較的低い位置にあり、一方、わずか数 mg〜数十 mg しか含まれない Co(コバルト)、Nd(ネオジム)、Pt(白金)のような金属が、実際には大きなリスクを持っていることを示しています。

携帯電話用バッテリー1kgあたりに含まれる金属量と、EUクリティカル原材料2023の供給リスク指標(SR)の関係を示した散布図。CuとAlの比率が大きいなかで、Coが量・リスクともに突出しており、バッテリー材料が資源リスクの集中点になっていることを可視化している。

出典:

・Morell et al., “Metal Recovery in Mobile Phone Waste – Characterization of Metal Content”, Waste Management, 2025.

European Commission, “Study on the Critical Raw Materials for the EU – Final Report”, 2023. より筆者作成

図2はバッテリーの解析結果です。Cu(銅)や Al(アルミ)の重量比はやはり大きい一方で、Co(コバルト)が量もリスクも大きいという結果になっています。実際バッテリーからのCoの回収は量も多く、リスクも大きいため、実績も多くあります。

つまり、重量が少ない=重要度が低いのではなく、重量が少なくても“機能価値”や“供給リスク”が極めて高い金属が現代の電子機器を支えているということが重要です。残念ながら技術とコストの壁によって、リスクは高いけど量が少ない金属のリサイクルは一般に困難なのが現実となっていますが。

希少金属が回収されにくい「構造的な理由」

私自身、電子部品や半導体の現場に長くいた経験から、希少金属が回収されにくい理由は次の4点に集約されると感じています。

  • 量が少なすぎて統計に現れないー制度上の“1トン”の世界では評価されず、意識されにくい。
  • 多くが工程内で損失している(廃液・飛散・付着など)―製品に残るのはごく一部で、大部分は工程中に散逸している。
  • 複雑な製品に微量分散しており、回収効率が低いー使用量が少ないほど、回収のための工程コストが高くなる。
  • 廃棄物は“重量ベース”で扱われることが一般的であるため、廃棄物処理の現場での重要性が可視化されない。

「量を減らす」から「価値を守る」へ

廃掃法が成立した時代、量を減らすことが社会問題でした。その役割は今も変わってはいません。しかし同時に“量の中に隠れた重要資源”が存在することも事実です。今後必要なのは、従来の「量の管理」を維持しつつ、その上に「価値」「機能」「リスク」という視点を追加することです。産業構造の変化に合わせて 視点を拡張する。その先に、より実効性の高い循環の姿が見えてくると感じています。 次回は、こうした“重量では見えない資源”が制度のどこでこぼれ落ちるのか、その構造的な要因となっている 「有価物」という境界領域 を詳しく考えていきます。

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