脱炭素開示で先行する企業になるための基準作り(第1回)

制度対応を“負担”で終わらせない ― 翻訳フレームと金額化の視点
~外部制度と内部活動の“ねじれ”を解き、価値ある経営指標に変える方法~

「脱炭素対応はコストばかりかかってしまい、正直“負担”でしかない」

多くの企業が抱えるこの感覚は、制度と現場の“ねじれ”から生じています。

ISSBやCSRDなど海外発の開示要求が急速に進む一方で、日本企業の現場では省エネ法や環境マネジメントシステム(EMS)に基づく活動が中心。両者がかみ合わないまま進んでしまえば、「努力は報われず、外部開示のための資料作成ばかりが増える」という事態になりかねません。 現場からすれば「毎月のデータ収集で手一杯」、経営からすれば「財務に直結する情報が欲しい」と、立場ごとに求めるものが異なるのもこの“ねじれ”の一因です。このブログでは9/19実施のセミナー内容を3回に分け、このような視点から課題を掘り下げていきます。全3回の内容は以下の通りです。

【3回シリーズ 構成】

  • 第1回:制度対応を“負担”で終わらせない ― 翻訳フレームと金額化の視点(本稿)
    外部制度と内部活動の“ねじれ”を解き、価値ある経営指標に変える方法
  • 第2回:ICP設計の実践 ― 制度と現場をつなぐ“翻訳機能”
    シャドープライス・逆算型・カーボンフィー、3つの型で未来の意思決定を支える
  • 第3回:翻訳を実装する ― 体制整備と演習から学ぶ第一歩
    ガバナンス、二重PDCA、そして“翻訳キーワード”で現場と経営をつなぐ

第1回 制度対応を“負担”で終わらせない  翻訳フレームと金額化の視点

第1回の本稿では、この制度と現場の“ねじれ”の背景と、それを解消する「翻訳フレーム」の考え方を提案し、これを軸に、制度対応を価値ある経営活動に変えるための視点を整理しました。

内外のねじれをどう解くか?

制度要求(ISSB/CSRD)と現場の管理活動(省エネ法・EMS)が噛み合わず、二重対応で疲弊しているのが現状です。

  • 外部要求 → 財務開示や投資家向け説明
  • 内部活動 → 省エネ改善や排出量算定

この2つが“平行線”のままでは、社内の努力が外部評価に反映されません。たとえば、工場現場で大幅な省エネ投資をしても、それが財務開示上では「コスト削減額」として表れず、単なる“活動報告”に終わってしまうケースは少なくありません。

そこで必要なのが 「翻訳フレーム」 です。 内部データを外部制度に“翻訳”する仕組みを設けることで、外部要求を負担ではなく「価値に変える」ことができます。これにより、現場の改善努力を経営指標や投資家への説明に直接つなげられるのです。

外部制度と内部活動のねじれを示す関係図

金額化が求められる理由

翻訳フレームの核となるのが「金額化」です。

投資家が求めているのは「数字による比較可能性」。

経営者にとっても、リスクや機会を金額で把握することは意思決定の前提になります。

たとえば炭素価格が上がったとき、企業は「追加コストはいくらか?」を計算しなければなりません。あるいは再エネ導入や効率改善をした場合、「将来のコスト回避額はいくらになるか?」を数値化できなければ、社内で投資判断を通すことも難しいでしょう。単なる「CO₂排出量の減少」では経営層に響かないのです。

セミナーでは、移行リスク・物理リスク・機会を整理する 金額化テンプレート を紹介しました。

  • 移行リスク:規制強化や炭素価格上昇の影響を「追加コスト」として試算
  • 物理リスク:洪水・渇水などを「期待損失額」として算定
  • 機会:省エネや低炭素製品による「利益増加・コスト削減効果」を評価
移行・物理リスクと機会を金額化するテンプレート

ここで大切なのは「外部情報」と「内部データ」の両方を掛け合わせることです。外部の炭素価格や災害リスクに加え、自社の売上・原単位・エネルギー使用量といった内部データを組み合わせてこそ、自社固有の財務インパクトが算出できます。

翻訳フレームの意味

制度対応を単なる「外圧」としてではなく、自社の経営判断に活かす“翻訳”の仕組み。

その第一歩が、内部データと外部要求をつなぐ 金額化プロセス です。

翻訳フレームを持つことで、社内の会話も変わります。現場担当者が「原単位改善率であと10%必要」と話せば、経営層も「それで将来コストはいくら削減できるのか」と同じテーブルで議論できる。こうした“共通言語”が、企業全体を前に進める原動力になります。 外部要求が強まる今だからこそ

  • 「ねじれを解消する視点」
  • 「制度と現場を翻訳するフレーム」

を持つかどうかで、企業の競争力は大きく変わります。

まとめ 内外ねじれは翻訳フレームで解決!

制度対応を“負担”に終わらせないために必要なのは、外部制度と内部活動を「翻訳」すること。

その中心にあるのが、リスクや機会を財務インパクトに結びつける 金額化の視点です。

「皆さんの会社では、この“翻訳フレーム”をどこから取り入れますか? 一歩を踏み出すきっかけとして、ぜひ社内で共有してみてください。」

次回(第2回ブログ)では、この翻訳フレームを実務に落とし込む具体的な仕組みとして、ICP(内部カーボンプライス) を取り上げます。国内外の導入事例を交え、制度会計と管理会計をつなぐ実践方法を解説していきます。

*このブログは(一社)企業研究会セミナー 「脱炭素開示で先行する企業になるための会計制度とICPでつくる“自社基準”の整え方」(2025年9月開催)の内容をもとに執筆しています。

本セミナーの内容をもっと詳しく知りたい方、自社での取り組みに活かしたい方は、ぜひご相談ください。メール(kgj_cherry01@mbr.nifty.com

または[お問い合わせフォーム]よりお待ちしております。

著作権について
本ブログの内容(文章・図表など)の無断転載・転用を禁じます。
ご利用希望の方は、桑島技術士事務所までご一報ください。

上部へスクロール